宮坂 康子様(フードコーディネーター)

宮坂 康子様執筆者のプロフィール
宮坂 康子さま(フードコーディネーター)
有限会社ミヤサカ クッキング スタジオ 代表
名古屋文理大学健康生活学部フードビジネス学科(2005年4月開設)講師
ミヤサカクッキングスタジオを設立し、名古屋でフードコーディネーターの草分け的存在として活躍。名古屋文理大学では「フードコーディネート実習」などの授業を担当。


「忘れられない母の味」




私の母は大正5年生まれでした。すでに17回忌が過ぎました。
私が母の味で忘れられないのがまず「冬瓜汁」と「古漬けたくあんの煮物」
すこし唐辛子が効いていてご飯のおかずにとてもおいしかった。

また生の大根を分厚く切って油揚げと共に時間をかけてゆったりと大鍋で沢山、沢山煮ていました。味のしみたその味は何とも懐かしい。
私が普通の鍋で同じように煮てみてもひと味もふた味も異なる母ならではの味が思い出されます。

母の実家は小さいながらも味噌・溜まり製造・販売業をしていて
味噌・溜まり・ 白醤油はいつも母の実家から届いていました。
白醤油を使う地域はこの尾張・三河地方辺りで関西も関東地方もまた全国的に みても白醤油を使っているところはなかったとか。 現在では「味とこころ」さんのおいしい白だしが全国的に広まって嬉しい思いです。

あと母の思い出の味は鯖や鰯の甘辛煮付けと山ほどのレンコンやサツマイモの天ぷら、お彼岸やおまつり時のすし飯がいっぱい詰まったいなり寿司。
暮れには昆布巻きを数えながら巻いて今年はきっちり88個などと言い、どうしてきっちりなのか訳が分からず、いつも私たち姉妹で笑いがおこりました。

お正月のお餅は小さい頃は父が土間で搗いていたのも思い出されますが、後はお米屋さんに注文をしそれが届くと少し固くなるまで1日おいてから、そののし餅を数えながら切るのです。そして必ず「よし!きっちり108個」とか訳の分からない「きっちり」と「よし!」というかけ声が入るのでした。

戦後の色々と無くした時代に辛い事も大変な事も、
母の持ち前の明るさで笑いの絶えない家でした。
無口な父と人寄りの良い明るい母の家庭で、
今思い起こせば幸せでありがたかった思い出でいっぱいです。
今は亡くなった母の年をとっくに超えてしまった主人が、
一番会いたくなるのは「まりこさん」と言ってくれます。
その事が今の私の一番の喜びです。

※「まりこさん」は私たちがつけた母のニックネームです。
天まりのように丸っこくて愛らしい母に一番ぴったりの呼び名でした。